手にしていたタイトルのチャンスを、またも自ら放棄したバルサ。サラゴサの援護も空しく、ただ失望だけがバルセロニスモを支配する。
ライカーはこの日、予想外の先発イレブンで周囲を驚かせる。中盤はピボッテ専門者を入れるのではなく、またもチビッ子トリオによる編成。さらに前線はロナウジーニョの位置にグジョンセンを起用してきた。このメンバーは、ライカーの勝利への意気込みを表すものといえる。選手たちはキックオフ直後から積極的にボールを支配し、攻撃を仕掛け、事実チャンスも作れていた。
しかしエスパニョールとて、気合では負けていなかった。彼らは得意のカウンターを中心に、よく守ってはバルサに脅威となる攻撃を仕掛けるペリコたち。エスパニョールにとってこの試合での3ポイントはたいした意味はないものの、ライバルには絶対に負けないという意地が垣間見れた。そして29分、タムードがカンプノウを静まらせる先制点を奪って見せるのだった。ピボッテ不在のため、フリーとなったデラ・ペーニャからのパスによるゴールだった。
まだ早い時間帯とはいえ、嫌なムードが漂うカンプノウ。けれどもサラゴサから届いた、ミリートが先制点を決めたという知らせにカンプノウは再び沸き立つ。これはもう運命がバルサを後押ししているに違いない!とばかりにチームを鼓舞するスタンド。そして選手たちもそれに応えた。決して挫けることなく、果敢に同点を目指すバルサ。カウンターで反撃するエスパニョール。それぞれが見せ場を作りつつ、43分、カンプノウが歓喜に沸く瞬間が訪れる。ザンブロッタからのクロスを、豪快にメッシが“ハンド”で決めたのだ。またも甦る、マラドーナの“神の手”ゴールの記憶。バルサはリーダーとして、ハーフタイムを迎えることに成功した。
後半も、主役はメッシだった。メッシのみが最大の脅威であったともいえるのだが、バルサはとにかくボールをコントロールし、勝利を引き込む追加点を狙っていた。引き分けのままでは、ロマレダで“不幸”があった場合は不十分となる。バルサには勝利が必要だった。そして56分、結果的に悲劇の英雄となるアルゼンチン人クラックが、待望のゴールを決める。エリア際でデコのパスを受け、密集地帯ながら技ありのシュートでGKカメニの壁を打ち破ってみせたのだ。
この時点で、リーガはバルサのものだった。カンプノウは、基本的にフィエスタムード。ただしサラゴサがニステルローイのゴールによって同点に追いつかれ、またエスパニョールも時折示すカウンターにて油断禁物であることは教えてくれていたことにより、「何が起こるかは分からない」空気は漂ってはいた。求められるのは、バルサの勝利を確定付ける3点目だった。
しかしバルサは、その3点目を決めることが出来ない。エトーやグジョンセンに惜しいチャンスはあったのだが、ネットを揺らすには至らない。そうこうしている間に届いたのは、またもミリートがゴールを奪い、マドリーがリードを許したというニュース。これで白組が再びゴールを決め、かつバルサが失点を許さないかぎりは首位を失うことはない。バルセロニスタは十中八九、逆転タイトルを確信していた。
ところが試合終了が目前となった89分、悪夢は突然訪れる。ラ・ロマレダでは執念のマドリーが2-2となるゴールを奪い(またもニステルローイ)、その数秒後、カンプノウではタムードがネットを揺らすのだ。このどちらかひとつだけなら助かったのに、まさか同時に起こってはならないことが起こってしまうとは。まさに、絶句という言葉がこれ以上当てはまることはないというシチュエーション。結局のところ、バルサは自らの手によって首位を奪還する機会を放棄したのだった。あとは最終節、文字通りの奇跡に全てを賭けるしかない。
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