グループEの首位通過をほぼ手中に収めることを目的として臨んだレンジャース戦だったが、ことはやはりそう簡単ではなかった。
バルサを本拠地に迎えるにあたって、レンジャースには迷いはなかった。エリア前に大型バスをずらりと並べ、徹底したカウンター戦術を採る。前線にはクサン一人だけを配置し、あとはノボを中継点として絡ませるだけで、守り抜こうという戦術である。バルサ封じとしては、常套戦術。しかしこれも貫徹されると、けっこう攻めるのは難しい。
亀の子チームを相手にする時はいつもそうであるように、ボール支配ではバルサがレンジャースを圧倒していた。けれどもそれはゲームを支配していたのとはまた別で、たどり着けるのはエリア前の地点まで。そこから先は、ずらりと並んだ巨漢選手たちに厳しく取り囲まれ、いかに世界を代表するクラックたちといえども突破できないのだ。初先発となったグジョンセンの動きは光っていたが、あれだけ守られるとやれることは多くない。
前半はバルサがひたすらに活路を見出すために試行錯誤を重ねた45分。6分のグッディのヘッド、24分のクロスバー直撃のロナウジーニョのフリーキック、40分のプジョルのダイビングヘッド(!)など数少ないチャンスもあったが、いずれもあと少しのツキのなさとGKマクグレガーの好守に阻まれて得点には至っていない。
41分にはコーナーの混戦からロナウジーニョにフリーでボールが渡るのだが、至近距離からのシュートはハットンの執念の人間壁に跳ね返されている。よく見ると完全なるハンドだったのだが、主審はこれに気付かず。ロナウジーニョからはチームのために何とかしようという気持ちがひしひしと伝わってきたが、徹底マークによってずいぶん苦しめられていた。ハーフタイム間際に扉は開きかけるのだが、寸でのところでレンジャースは踏ん張りきった。
そしてハーフタイムを経て、再び開きかけたレンジャースの扉は閉ざされることとなる。目的はあくまでもグループリーグ突破の彼らにとって、バルサ戦はエンパテで上等。あわよくばカウンターの一撃による勝利なのだ。いささか見苦しいともいえるプレースタイルではあるが、特に後半45分の彼らの遮二無二のプレーを見せられると、さすがに印象も変わってくるものだ。
とにかく1点奪えば、レンジャースは崩れるはず。後半もバルサは、一方的に相手を攻め立てた。ゲームが行われるのは、ほぼグラウンドの半分のみ。バルサ陣内には、ボールが転がり込んでくることすら少ない、そんな状態だ。レンジャースはサンドバッグと化していた。しかし恐ろしく分厚く、叩いても揺れないサンドバッグ。68分にはアンリがフリーでヘッドを放つというチャンスに恵まれたが、ナゼかこのシュートはクロスバー上空を超えていった。どうしたアンリ?これは決めて欲しかった。どうしても、バルサはレンジャースネットを揺らせない。
そうこうしているうちに、試合の状況は変化していく。流れは完全なるバルサのボール支配から、レンジャース方面へ。決めるべき時に決めておかないと、後でヤバイことになるというのがフットボルのよくあるシナリオであるが、まさに昨日がそういう感じ。アイブロックスに詰め掛けた熱い観客の後押しを受け、レンジャースは後半終盤に牙をむくのだった。
バルサは少なくとも2度、レンジャースに決定的な場面を許している。いずれも、あと少しばかりタイミングが合っていれば得点となっていた危ないシーン。その点ではフットボルの神様は、平等に運を与えたというところか。最後の数分は、両チーム共にエンパテで良しとしたことでの、最終ライン付近でのボール回し。バルサのあからさまな時間稼ぎは、久しぶりに見た気がする。
スコットランド決戦は、異なる2つのプレー哲学が、非常に分かりやすくぶつかり合ったゲームだった。厳しい見方をすれば、バルサはあれだけのボール支配をしながらも、引いた相手を崩す術を知らなかったハンパ者。クラック個人のひらめきも、チームとしてのパス展開による崩しも、そのどちらもが決定的ではなかった。それは残念でならないものの、その一方で全力で90分間守り抜き、あわやという見せ場も作ったレンジャースには「よくやったね」との感想もある。間違いなく彼らは、次のカンプノウでも守ってくるだろう。そこで存分にお返しをさせてもらうこととしよう。
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