試合を通じて、支配したのはバルサ。しかしヒルデブランドの狂い咲きと、天敵ビジャの一発によってエンパテに終わった。
悲しいシーズンを送り、絶対にコパのタイトルが欲しいバレンシアはこの試合、予想通りカテナチオ戦術を採用してくる。ボールはバルサに譲り、ひたすらにゴール前を固めてカウンターを狙う、まったく楽しくはないが、実用的ではある戦法だ。
この亀の子になったコウモリに対し、バルサは開始早々にビッグチャンス。6分、チャビがエリア内でパスを受け、ほぼ無人といえるゴールに向かってシュートを放つ。しかしこれがなぜかGKヒルデブランドの身体に当たり、スタンド悶絶。その跳ね返りをエトーが拾うも、シュートはまたもデフェンサの足に。さらにその跳ね返りをメッシがシュートするのだが、これもデフェンサの胸に当たってゴールならず。嗚呼なんてもったいない、ネットが揺れなかったのが奇跡といえるプレー。
九死に一生を得たクーマン・バレンシアは、その後も攻撃は放棄し、ただただゴールを許さないことだけを目的としたかのようなプレーを続ける。ヒルデブランドは最初こそ危うげに見えたが、徐々に神経を研ぎ澄まし、文字通りの鉄壁となっていく。間違いなく彼が、バレンシアにとっての救世主だった。
守るコウモリに、バルサは攻め続けた。15分には左サイド角度のないところからミリートのボレー、28分にはアンリのミドルシュート、45分のアビダルのロングシュートなど惜しいシーンもあったのだが、いずれもヒルデブランドの壁を越すことはなかった。ボールは圧倒的に支配するのだが、最後の局面でのバレンシアの守りは堅く、もちろんスペースもない。そうこうして、前半は終了。“フットボル”は、片方のチームだけでは出来ないのだ。
後半のライカーは、メッシに思う存分プレーするよう指示したようだった。そしてその期待に応え、バレンシア守備陣を混乱に陥れだすアルヘンティーノ。メッシは後半開始直後から連続し、決定機を手にするのだ。しかし、その上を行ったのがヒルデブランドだった。メッシは49分と56分、いずれもエリア内でドイツ人ポルテーロと1対1になる局面を作り出している。だがメッシのシュートはことごとくヒルデブランドにブロックされ、得点ならず。
さらに66分には、エトーのミドルシュートをまたもヒルデブランドが弾き返し、こぼれ球がメッシの元へ。ここで彼は飛び出してきたポルテーロと交錯し、エリア内で倒される。しかし審判はこれをメッシのファールととり、カードを提示されるのだった。スタンドからは、なんでやねんの野次。
そして試合はこう着し、両チームは選手交代で流れを変えようとする。68分、クーマンはバラハを送り込み、ライカーはデコとアンリを下げてイニエスタとボージャンを投入。しかし結果として、この交代はチーム・ライカーに悪く出てしまった。その直後の69分、たった一発のカウンターから、バルサ戦5試合連続ゴール中といかんなく天敵ぶりを発揮しているビジャが、ネットを揺らしてしまうのである。なんという不公平。だが、これもフットボル。
大いなる不条理と落胆。しかしこのゴールでバルサはいっそうハートに火を燃やし、バレンシアゴールへ向かっていく。80分には再び、メッシが決定的チャンスを演出。悪魔ドリブルにてエリア内に切れ込み、ヒルデブランドと1対1になるのだが、今度はポルテーロの足に弾かれゴールならず。なんですかね、このバカ当たり。
ここまでくると、もう笑うしかない。ライカー・バルサは攻めに攻め、決定的なシュートをいつになく放っている。なのにネットが揺れないというのは、もはやボール自身がそれを拒んでいるとしか思えない。普通であれば、ゴレアーダになっていても不思議ではない試合。だがスコアは0-1。ヒルデブランドとバレンシア守備陣の壁を破るのは、奇跡が必要とすら思えた。
そしてその奇跡というか、劇的な瞬間は訪れる。もはや誰もが敗北を覚悟した93分だった。エリア内で1対1となったエトーのシュートはまたもヒルデブランドに阻まれるのだが、このこぼれ球を今度はチャビがきっちり押し込み、ついについにバレンシアのゴールを割ったのだ。またもチャビ、しかも終了直前ロスタイム!
バレンシア選手たちはエトーのプレーがハンドだったと抗議したが、ゴールはすでに認められている。土壇場での同点ゴール。理論的には不利な状況であることは確かだが、バレンシアがカンプノウよりは前に出ることになるだろうメスタージャでの試合に、必ずチャンスはある。今回のようないいプレーを行えれば、必ず決勝へ進めるはず。ヒルデブランドがいつまでもバカ当たりすることもなければ、ボールがいつまでもゴールを拒むことだってないのだ。第2戦では、盛大なお返しがしたい。
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