マンチェスターという最大の強敵によって、萎びていたバルサは甦った。久々に見る、相手をプレスによって追い詰めるバルサ。ただゴール前でのシュートだけが足りなかった。
チームライカーにとってシーズンでもっとも重要な試合となるこの日、監督は先発に1ヵ月半プレーから遠ざかっていたデコと、リズムを取り戻せてないマルケスを起用する。これはそれだけ台所事情が苦しい証でもあるが、選手たちはその期待に見事に応えてくれた。特に現場監督デコの動きは、これが復帰直後かと思うほどだった。メッシは満を持しての先発出場。
一方のマンチェスターは、大方の予想とは異なり、守備的な布陣を採用してくる。クリスティアノ・ロナルド、ルーニー、テベス、パクと攻撃的な選手はいるのだが、バルサが本調子でないと読んだファーガソンは、ライン統制によって守備を固め、攻撃はカウンターでいこうと目論んだようだった。
ゲームはいきなり、このゲーム最大の山場を迎える。開始1分、ロナルドのヘッドをマークしていたミリート元帥が、故意ならずとも明らかなハンドを犯してペナルティの笛。カンプノウはヤバイと凍りついた。しかしスタンドからの圧倒的な口笛圧力に気圧されたか、ロナルドはこのシュートをまさかのポスト弾。クレのプレッシャー、そしてサン・ジョルディの加護があったのだろう。
九死に一生を得たバルサは、その後マンチェスターを圧倒的に支配する。15分をすぎる頃からは、完全にバルサのペース。中盤での圧力が効き、これでもかとパスを展開するバルサのプレーに、赤い悪魔は防戦一方となっていた。しかし引きこもったマンチェスター(!)は、それはそれで面倒。がっちりと9人で守備を固められると、さすがのバルサ攻撃陣も攻めきれない。
前半、バルサは2度ほど惜しい場面を作っているのだが、エトーのちょっとした弱気やいつもよりキレのないイニエスタ、なによりもマンチェスターの守備戦術によって、明らかなシュートを放つに至っていない。あと一歩のところまでは崩せても、シュートが打てなければ得点は生まれない。他方のマンチェスターがペナルティ以外の決定機がゼロだっただけに、リードはしておきたかった。
そして後半。前半終了間際にはバルサのプレーにも慣れ、ややペースを取り戻しかけていたマンチェスターだったが、後半になるとまたもリズムは失っていた。よって、ゲームは引き続きバルサがコントロールしている。惜しかったのは51分、エリア内の狭い区域にてメッシとイニエスタがボールをつなぎ、イニのおしゃれなヒールパスを受けたエトーがフリーでシュートを放ったシーン。まさにバルサという完璧な崩しだったのだが、惜しくもシュートはサイドネットに突き刺さっている。
60分頃にはメッシが疲れの様子を見せていたので、ライカーは元気なボージャンを投入。スタンドは大きな拍手を送っている。この時点でも、ゲームのパノラマは変わらない。ボールを支配するバルサ、守るマンチェスター。バルサの攻めにアイディアが不足しているのも、変化なかった。チームとしてやれることは全てやろうとしてる、それは伝わってきた。しかしシュートに結びつかない。そうしているうちに、両チーム共に燃料が減少し、ゲームは落ち着いたものとなっていった。
そして残り15分となって、お疲れのデコに代わってアンリ登場。さっそく彼は82分、強烈なシュートにてバンデルサールを脅かしているのだが、残念ながらこのミドルシュートは弾き返されゴールならず。43分のフリーキックも威力はあったのだが、やや正面だったことで難なくGKに防がれている。
いつになく走り、いつになくプレスをかけ、いつになくちゃんと試合を支配したバルサ。スタンドの声援もカンプノウらしからぬ盛り上がりで、チームを支えていた。猛烈な口笛の嵐は、クラシコを思わせるほどだった。しかしスコアは0-0で動かず。オールドトラッフォードでゴールを奪って引き分け以上であればバルサの勝利なので、決して悪い結果ではないのだが、支配が圧倒的だっただけに出来れば勝っておきたかった。いずれにせよ、勝負の行方はマンチェスターへ。目を覚ましたこのバルサを見るかぎり、勝敗はどちらに転んでもおかしくはない。
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