ゴール不足はここにきても解消されず。ペースはそれなりに掴めていたが、ゴール前での迫力が圧倒的に足りなかった。夢の終わり、これが現実。
マンチェスター・ユナイテッドは、戦前の圧倒的ともいえる前評判に匹敵するようなプレーをバルサとの2試合で見せることはなかった。しかしバルサよりも断然チームであったし、カンペオン的な強さがあったし、フットボルでもっとも肝心なゴールを、ここぞのタイミングで決める実力があった。2試合合計スコア1-0はやや意外ではあるが、マンチェスターの勝利は順当だったといえよう。
連携、チームによる崩しというものがないバルサは、やはりメッシと幸運が頼りだった。ゲームは序盤、激しいプレス合戦で始まったのだが、マンチェスターはどちらかというと守備を意識している。カーサではあるが、まずは無理に攻めてバルサにチャンスを与えないことを第一とした試合運びだった。ボールの主導権を握ったのは、カンプノウと同じくバルサ。ここまでの感じは、バルサとしてはプラン通りだっただろう。
しかしゲームはひとつのエラーからガラリと変化する。14分、ザンブロッタの不用意なパスミスをかっさらったスコールズが、相変わらずの勝負強さで得意のロングシュートをバルサゴール右隅に突き刺したのだ。シュート回転のかかった、見事なゴラッソ。これはシュートの質を褒めるべきなのだが、エラーとなった場所とタイミングが悪かった。
先制点を奪われたバルサではあったが、状況的にはそれほどにダメージを受けたわけではない。バルサにとって致命的なのは2点目であり、こちらが1点決めさえすれば、1-0はさして意味を成さないのだ。しかしこのゴールはバルサの精神にダメージを与えた。意気上がるマンチェスターに対し、リズムを掴めなくなるバルサ。主導権は明らかにユナイテッドへと移行する。
ただ、マンチェスターがそれで怒涛の攻めを見せたわけでもない。決定的だったのは20分、ロナルドのセンタリングを流しいれたパクのシュートくらいであり、バルサは凌ぎつつ33分、デコのミドルシュートを機に再びペースを引き寄せていく。ここまで、バルサの攻撃陣には積極的にシュートを放とうという勇気、迫力がなかった。そこで身をもって指針を示すデコは、さすがといえる。
そこからしばらくはまた、バルサのリズムだった。しかし36分、らしい連携からのデコのミドルはわずかにポストの左に逸れるなど、決定力不足はここにきても改善されない。むしろ決定的チャンスであればマンチェスターの方が上手。40分には左のパクが粘り、そのクロスをナニがあわやというヘッドで脅かしている。
そして後半となるのだが、バルサにはまだ45分があり、1点さえ決めれば大有利という状況は変わらない。むしろ1-0のまま試合が展開していくほどにマンチェスターは恐怖を募らせていくはずなのだが、どちらかというと萎縮しているのはバルサ。やはり得点における確固たる自信が足りないのだろう。4月12日のレクレ戦以来、3試合無得点中のバルサ。ひたすらゴールが遠かった。
逆にマンチェスターはハーフタイム直後、いいシーンを連続して作っている。53分にはエリア内混戦からロナルドのラストパスに詰め寄ったナニ。56分にはこの日の主役ともいえるテベスが、またもゴール前混戦から抜け出し、バルデスの至近距離からシュートを浴びせた。このあたり、いずれもネットを揺らしていてもおかしくないプレーだった。
どうにかして流れを変えたいバルサは、60分にイニエスタに代えてアンリを、70分にエトーに代えてボージャンを投入する。この日もエトーはどこか消極的で、物足りなさが残るプレーだった。しかしライカーの願い、クレの願いも虚しく、いずれの交代でも局面を打開することが出来ないバルサ。ボールは保持するものの、ボールを持たない選手の動きで守備ラインをかく乱できない。今季ずーーっとみてきた光景が、今回もただ繰り返されるのである。嗚呼ゴール前で、怖くないバルサ。
試合終盤のオールド・トラッフォードの祈りを込めた声援を見ても分かるように、彼らはただの偶然であろうと、とにかく1点が入ることを怖れていた。バルサもそれは知っていただろう。選手たちは最後まで諦めず、勝負を決めるゴールを目指している。しかし今のバルサに、ゴールは非常に遠い。昨年夏にはゴールを決めまくって勝ち続けると期待されていたチームが、シーズンの重要局面で4試合連続無得点。そして夢の終わり。バルセロニスタに残された最後の希望は“夢の劇場”にて幕を閉じ、あとは大失敗と総括されるであろう夢の残骸だけが残った。
|