フットボルの“不公平”がよく表れていたゲーム。バルサは圧倒的にボールを支配し、相手エリアに攻め込みながら、シュート1本のラシンと引き分けた。
このラシン戦は、本来ならバルサのゴレアーダとなっていてもおかしくはない試合だった。その放たれた決定的なシュートが半分でも決まっていれば、余裕で勝てていた展開。しかしネットが揺れたのはメッシが決めたペナルティの1回のみであり、そしてそれだけでは3ポイント獲得には不十分だった。ラシンはバルサゴールに唯一放ったシュート(フリーキック)により、まんまと同点ゴールを奪ったのである。
この試合、ペップ監督は思い切ったスタメン起用をしている。代表戦によるコンディション不足のため、主力選手を何人か落とさざるを得ず、ブスケとペドロが先発フル出場を果たしたのだ。プレシーズンに何度か先発となっているペドロはともかく、ブスケ(20)のいきなりの先発起用は超意外。誰も予想は出来なかっただろう。肝心のプレー内容は、上々といっていい。ラシンは攻めを放棄していたものの、のびのびとプレーするブスケの姿は、クレに期待を抱かせてくれた。
ラシンの狙いは、明らかに0-0だった。以前はもうちょっと気概のあるチームだったが、今回の彼らはウルトラディフェンシブ。前半のシュート数がゼロ、全体でも1なのだから、その専守防衛っぷりは分かる。通常であれば、そういう試合をすれば大抵は負ける。しかしそんな相手を崩しきれないところに、このペップ・バルサの未完成さも窺えるのである。
チームとしてのプレーは、酷すぎた前節に比べ向上はしていた。モチベーションはあったように見えたし、ワンタッチでボールを展開していこうという意図もあった。しかしながら熟成不足のチームは、まだ守りを固める相手を崩す術を知らない。バルサは理論より、気持ちでプレーをしていた。急所をえぐるようなパスは出ず、頼みのエトーもこの日はキレ不足。おまけにゴール前での運も足りないし、フレブが悪質なファールで負傷交代するなど、ツキは全然なかった。
前半には見せ場などなかったと言っていい。そして勝負の後半なのだが、一番目だったのは残念なことに、相手ポルテーロのトーニョ。言ってみれば彼がこの日は狂い咲き、バルサのシュートをことごとく止めていくのである。年に何度かは出くわす光景だ。こういう試合は、ファンにため息ばかりを増やさせてくれる。
バルサは決定的チャンスの連続だった。46分、アルベスの気の利いたバセリーナは不運にもクロスバーに跳ね返され、56分にはイニエスタが左をえぐり、走りこんだペドロが放ったシュート(90%は入っている)をトーニョがブロック。さらに60分にもアルベスのシュートをトーニョは阻止、67分にも右からのアルベスのセンタリングに合わせたエトーのシュートを、このトーニョは弾き返しているのだ。思わずのけぞるカンプノウ。
しかし、この試合はラシンの悪質ファールを見逃しまくっていたドミンゲス主審も、クリスティアンのあからさまなハンドによるアルベスのセンタリングブロックだけは見逃せなかった。ペナルティの笛が吹かれ、メッシがこれを決めてやっとこさ先制。70分のことだった。これでチームも楽になり、それによってサクサクとゴールも決まるようになり、余裕で勝てるかもしれない。そう多くのクレは考えただろう。だが、現実はそう甘くはなかった。
その数分後の75分、エリア際でのプジョルの正当なボールクリアがファール判定となり、そのセットプレーによってラシンはまんまと1点を奪い取るのである。彼らにとっては、このゲーム最初のチャンスだった。ガライの蹴った低い弾道のボールを、密集地帯でパレイラがちょろっと触ってゴールイン。なんて不公平なんだろう。しかしそれもフットボルだ。多少の理不尽は、たまに起こりえる。
その後、バルサは必死の反撃を試みるのだが、その努力も空しく時間切れ。60分前後の時間帯、圧倒的に掴み取ったチャンスを決められなかったことが、とにかく高くついた試合だった。これでバルサは、6ポイントを計算していた2試合で5ポイントを落とした。そして決めたゴールはわずかに1つ、しかもペナルティ。不運な引き分けだったとはいえ、ムードが暗くなるのは避けられないだろう。早い夜明けが待ち望まれる。
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