前節までリーガ5連勝中のバレンシアと、7連勝中のバルサの戦い。メスタージャは燃えるスタンドと、それに応えようとするバレンシア選手たちによって、非常にハイボルテージな状態になっていた。なんでも、二季ぶりの満員御礼だという。
3日後にチェルシー戦が、1週間後にクラシコが控えるバルサは、幾分それを意識したと思わせる先発メンバーとなっている。ピボッテはトゥレとブスケが共に制裁リーチ。ペップはそこで今回、フエラ戦だがブスケを選択した。左エストレーモもアンリではなく、イニエスタだった。
ゲームは序盤より、バレンシアが前線より激しいプレスを見せてくる。まるでいつもバルサが相手チームに対してやっているような、積極的な圧力。バルサもそれに対抗し、恒例の鬼ロンドを実行しようとしたが、この日はチャビの調子がいまひとつ。チームとしてのリズムも欠き、展開が単調になっていた。双方シュートに辿りつかぬまま、時間が経過していく。
バレンシアの熱い守備に、バルサは20分を超えるまで、わずか1本のシュートに抑えられていた。しかしワンチャンスでなんとかなってしまうのもバルサ。24分、左のイニエスタが中央のメッシと2回ワンツーパス交換を繰り返し、最後はイニエスタの溜めによってフリーとなったメッシが押し込んでしまうのである。悪魔タンデム!狭いエリア内に6人の守備者がいようと、関係ない破壊力。
この先制点により、バルサのギアは一段アップした。パスの流動性は(少し)上昇。このままバルサが勝利に向けて突っ走るかのようにも思えた。実際、そこからはシュートも増えている。しかし決定機といえるものは作り出せず、逆に一時のショックを乗り越えたバレンシアの逆襲が始まるのである。
そして42分、右コーナーのボールをバルデスが競り合いの中でキャッチ損ない、プジョルのヘッドも空振りに終わると、背後のマドゥーロが胸で押し込み同点。ただ運よく当たっただけのようだが、1点は1点である。メスタージャは沸騰した鍋のように沸きあがった。
バルサはこの悪い時間帯での失点と、スタジアムのムードに気圧されてしまったのだろう。この7試合無失点を誇っていた守備陣に綻びが見え、あっという間に逆転を許すのだ。ロスタイムの46分、パブロ・エルナンデスがマタとスピードに乗ったワンツーを繰り出し、絶妙なボールタッチでアルベスとプジョルの隙間を突破。そのままバルデスも攻略し、2-1とした。バルサにとっては、痛恨の3分間だった。
逆転に成功したバレンシアは、後半、精神的なゆとりを持ってプレーするようになっていた。集中力を切らさないプレッシングによってバルサの攻撃の芽を摘み、ビジャ、シルバ、パブロ・エルナンデスらスピードと突破力のある攻撃陣によるカウンターでバルサゴールを脅かす。ボール支配率はバルサだったが、ペースを握っていたのはバレンシアである。
局面を打開するため、63分、ケイタに替えてアンリを投入する。そしてこのティティは早々に二度ほどの鋭いシュートにてGKセサールに脅威を与えた。非常にイケそうな雰囲気をもったアンリだった。しかしその逆襲のムードも束の間。巧みに仕組まれた守備組織、そしてここぞの戦術的ファールにより、バルサの勢いは終息するのである。
ペップはさらに76分、今回は輝けなかったチャビに替えグジョンセンを送り込むのだが、大勢は変わらず。バレンシアは時間の経過と共に守備を固め、得意のまとめに入っていた。バルセロニスタにとっては、そろそろ嫌な結末も受け入れねばならないのか・・・と思い始める時間帯だった。
だが、“カンペオンの運”とでもいうのだろうか。そのまま負けてしまわないのがこのバルサである。86分、エリア遠目からのフリーキック。ほとんど得点の匂いなどしないプレーだったが、セサールのパンチングによるクリアボールを拾ったアンリが、これを押し込んでしまうのだ。デフェンサに当たり、ふわりと浮き上がったボールだったが、ゴールに吸い込まれるのも何かの“引き”だろう。
この一連のプレーで、セサールは足を痛めていた。バレンシアは交代枠を使い切っており、変更は出来ない。さらにロスタイムは5分。バルサにとってはかなり期待を持てそうな状況ではあったがしかし、ゲームはそのまま2-2で終了した。黒星に片足を突っ込んでいただけに、バルサにとってはありがたいエンパテだった。
これによって、次節ベルナベウでの優勝決定はなくなった。残念、無念。それをなにより、マドリディスタたちはほっとしていることだろう。このスコアがサンチェス・ピスファンでのゲームに影響を与えるか。“トゥールマレ”って雰囲気になってきた。
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