2009年5月2日のベルナベウクラシコは、バルセロニスモにとって歴史的な試合となった。これまでしぶとく追いすがってきた2位マドリーを、敵地にてこれでもかと圧倒し粉砕。フットボル的実力差をまざまざと全世界に示し、リーガ制覇に王手をかけた。強く美しいバルサ、ここにあり。
ペップ・グアルディオラはこの試合でも、当然ながらベストの布陣を敷いてきた。火曜日のチェルシー戦でヒザを傷めたマルケスだけがプジョルと入れ替わり、残り10人はレギュラーをずらりと並べている。チェルシー戦は、相手のアンチフットボル戦術によって思うようなプレーが出来なかった選手たち。だが、この日は違った。実に壮大なる、一大スペクタクルを展開してくれるのだ。
これまで、超現実的退屈フットボルで結果を積み重ねてきたマドリーだったが、さすがにクラシコで亀にはなれない。積極的に前からプレスをかけることになる。これはバルサにとってはありがたかった。慣れないことはするもんじゃないともいえるが、その勇気にまずは乾杯だ。打ち合ってくるマドリーに、バルサが打ち負けるはずがない。
先制点はマドリーだった。14分。序盤、やや不安定だったアビダルをセルヒオ・ラモスが振り切り、良質のクロスを供給。これにゴール正面でドフリーになっていたイグアインが余裕で頭を合わせ、呆気なくネットを揺らすのである。盛り上がるベルナベウ。最初のシュートで1点とは、相変わらず効率のいいチームだ。
しかしペップバルサはまったく怯まない。「ん?なにか?」とばかりにマドリエリアに襲い掛かり、あっさりとゴールを陥れるのである。18分、メッシからの浮き球ワンツーパスにアンリが抜け出し、事も無げにボールを流し込んでしまうのだからエグイ。白組のアドバルーンに穴が開く。しぼむ逆転優勝の夢。ここからはマドリディスタにとって、悪夢のような時間だったろう。
さらにバルサは直後の20分、ゴールライン際で得たフリーキックをプジョルが気迫のヘディングで押し込み、1-2。チャビのキックもお見事、豪快に飛び込んだプジョルもさすが。今季初ゴールがこのクラシコであるあたり、実にプジョルらしい。カピタンマークに誇らしげにキスをするモジャ毛主将。あっぱれ!
ここからのゲームは、ほぼバルサ一色となる。高い位置からのプレッシング、速いリズムでのボール展開、ここぞのタイミングでの必殺スルーパス。23分、26分、29分、32分、と次々に決定的なチャンスが訪れる。ゴールを守るのが聖カシージャスでなかったら、ベルナベウは前半で炎上していただろう。圧倒的なる、フットボルの差。マドリーは唯一度、ロッベンがバルデスを脅かしてはいるが、ただそれだけだった。
そして35分には不用意なディアラからチャビがボールを奪い、それを拾ったメッシが一気にカシージャスを料理。相手のエラーからゴールをいただくのは、なんとも非常に気持ちがいいものだ。もっと大差がついていても良かったが、とりあえず前半は1-3で終了する。
後半は、前半と似たような展開で始まった。バルサの支配は紛れもなかったのだが(48分にイニエスタのミドルシュート、55分にはメッシのスラローム突破と2度決定機を作っている)、56分、白組はワンチャンスから1点を返して見せるのである。ロッベンの右からのフリーキックを、セルヒオ・ラモスが頭で押し込んだのだった。これでスコアは2-3。ベルナベウが若干甦った。
しかしこのクラシコは大事な場面でのアンリの活躍が光っていた。獲られたら、すぐに獲り返す。このアンリの2得点によって、バルサは非常に落ち着いてプレーが出来るようになっている。58分のゴールはカウンターだった。チャビからのスペースへのボールに抜け出したティティは、エリア外にカシージャスが出てくるところを見極めての絶妙のタイミングでのシュート。ボールは無人のゴールへと転がっていった。前半、ヒザにダメージを受け、万全ではなかったアンリ。素晴らしすぎる。
この2-4で、マドリーのモチベーションは急激に降下した。ベルナベウも現実を知り、引き分けすら不可能だと悟った。あとはどれだけ、傷口を少なく出来るかだけだった。だがバルサは容赦なくカシージャスを攻め続ける。75分には、メッシからボールを受けたチャビがエリア際にて鬼キープ&華麗なるターン、そしてカミソリスルーパス。フリーでボールを受けたメッシは悠々、ゴール右隅にシュートを突き刺した。憎すぎる、シュートフェイント。
ベルナベウにはそろそろ、空席が出始める。残るファンたちも、早くゲームよ終われ、の心境だったろう。でもゴメンナサイ。バルサ祭りには最後の締めが残されていた。フィエスタのとりを飾ったのは、この日守備面で絶大な働きを見せたピケだった。速いボール展開によってエトーが右から入れたボールに、なんと攻めの基点となったピケが飛び込んだのだ。最初のシュートはカシージャスに阻まれるものの、そのこぼれ球をあたかもデランテロのごとき身のこなしで押し込み、1-6。ベルナベウはもはや、どよめきすら起こらない。ピケ、リーガ初得点。そしてそれがバルサのリーガでの今季100得点目。あんた、なにか持ってるね。
連勝だ、逆転優勝だ、と浮かれ騒いでいたマドリーに対し、これが本当の強さだと王者の返礼。この疑問の余地なき勝利により、バルサのリーガ制覇はもう間違いないものとなった。これにて、首都方面からのうるさい圧力も消える。アディオス、マドリー。最高の引き立て役となってくれたことに、心からの謝意を送る。
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