これでもう今季のチャンピオンズとはお別れだと思っていた後半ロスタイム、イニエスタによる超劇的ゴラッソがチェルシーゴールに突き刺さる。全世界のバルセロニスタが絶叫した瞬間だった。
この試合、最初の注目点はプジョル、マルケスの不在をペップ・グアルディオラがどうカバーしてくるのか、だった。ペップはこの大決戦に、思い切った選手起用を行う。ピボッテのトゥレ・ヤヤをセントラルに下げ、ピケとコンビを組ませたのだ。これは初めての試み。噂はあったが実行に移すとは、勝負師ペップ。アンリの負傷は、イニエスタの前線配置でカバーした。
もうひとつの注目点は、カンプノウにてウルトラ守備的戦術を採用したチェルシーが、地元でどのようにプレーしてくるか、だった。彼らは守備的ながらも、いくらかは積極的にショートカウンターを狙う作戦でくる。とはいっても、ほんの少しの積極性であるが。ドログバへのロングパスを基本としつつ、高い位置でボールを奪えれば一気に裏のスペースへ。急造守備ラインのためバルサの守備はやや不安定。この攻撃は実際、悔しいながら幾度となく脅威となった。
ゲームは9分、ゴラッソによって最初の動きをみせる。ランパーの左からのクロスがトゥレに当たり、その跳ね返りをエシエンが豪快にボレーシュート。これがゴール左角に入ってしまうんだから、堪らない。100回打って、1回入るか、そんな大ゴラッソだった。これはもう、交通事故に近い。
その後も、チェルシーの必殺カウンターは続く。回数は多くはないが、エリアに近づかれた時はピンチというパターン。バルサは幾分際どい守りで、それらを凌いでいった。前半で危なかったのは25分、アルベスによるライン際エリア外ギリギリのファールからの、ドログバによるフリーキック。蹴りこまれた高速ボールを、バルデスが弾き出している。
前半のボール支配率はバルサが7割近かった。だがそれはよくある、“持たされている”状態。敵エリア近くでは堅い守備によって絡めとられ、決定的チャンスはまったく作り出せてはいない。ゴール前を7人で守る相手に、スペースは存在しない。メッシもエトーも青い壁たちに消され、バルサの攻撃はミドルレンジからのシュート数本限り。それらも、枠を捉えなかった。
後半も、パノラマに変化はなかった。52分、チェルシーはカウンターからドログバがバルデスと1対1になる場面を作り出すことに成功するも、ここは守護神の気迫によってなんとかゴールは許さず。これが入っていれば、バルサの敗退はほぼ確実に決まっていただろう。
思うような戦いが出来ないバルサは、さらに66分、手痛いハンデを背負わされることになる。カウンターで抜け出そうとしていたアネルカへのファールが悪質だったとして、アビダルが一発退場とされてしまうのだ。たしかにそれまでにも、ドログバへは微妙なタックルが何度かあったり、ピケのハンド疑惑もありはしたが、この判定は厳しかった。バルセロニスタの多くにとって、決勝進出が絶望的に感じられた瞬間だ。
その後も、ゲームはチェルシーのペースで進んでいく。バルサはどうにか青壁をこじ開けようとするも、思うようにパスが回らない。一方でチェルシーは71分、ランパーが惜しいシュートを外している。
ゲームはそうして、ロスタイムへと突入していった。バルサは片足を負けに突っ込んだ状況。しかし1点奪えば勝ち抜けなので、スタンフォード・ブリッジのブルーズサポーターたちからも、緊張感は失われていない。早く終われ、と彼らは祈っていた。そしてその願いが叶おうかとしていた93分、劇的なドラマが待っていた。
それまで効果的なクロスをなかなか上げることのできなかったアルベスからのボールは、中央でまず弾かれる。これをエリア左のエトーが拾おうとするも、そのボールもエシエンが先にタッチ。だがそのボールがメッシへのパスとなり、メッシが中央へ折り返したボールを、待ってましたとイニエスタが思い切りよくゴール右角に叩き込んだのである。1-1!シンジラレナイ!!ありがとうイニエスタ!まさか、まさかこの時間にあのシュートが決まろうとは。このゲーム唯一の枠内シュートが、チームをファイナルへと導いた。
スタンフォード・ブリッジの絶叫と共に、ローマへの扉はバルサに開いた。クラブ3度目の欧州制覇まで、あと90分。相手は昨年やられた王者マンチェスター。ここまできたなら、いっちゃうしかない。待ってろ赤い悪魔。今年のバルサは、昨年とは違うぞ。
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