管理人の観戦記

フィエスタのハネムーン編

僕がバルセロニスタになってしばらくした頃から、ずっと心に決めていたことがある。 なにがなんでも譲れないその決意とは、言うまでもなく次のようなものだ。

「新婚旅行は、絶対にバルセロナ」

2005年9月、その積年の夢を実現させる瞬間がとうとうやってきた。前回のバルセロナ訪問から早3年余。その間にパワーアップしているであろうスペイン語力を実戦で試すべく、僕は嫁とともに聖地へと飛び立った。

※数字はすべて2005年当時のものです。

1. 苦難のスケジュール

回の旅の問題点、それは日程だった。

バレンシア戦の開催予定日は9月21日。僕がこのゲームをターゲットに選んだのは、それが強豪同士の盛り上がるゲームになるだろうというだけではなく、ちょうどこの時期のバルセロナが1年で最高に盛り上がる『メルセ祭』と重なるという理由からだった。秋が訪れているとはいえ、まだ地中海らしい気温を維持している時期でもあるし、街歩きするにも適している。バルサとフィエスタ。数少ないバルセロナ行きのチャンスを活かすには、そしてそれがハネムーンであるならば、この組合せは最高だった。

「かりにバルサで嫁に喜んでもらえなくとも、祭りでは楽しんでもらえるだろう」

かしその旅行を計画していく中で、僕は面倒な問題にぶち当たることになる。それはこの時期が、日本でも連休になっているということだった。19日(月)が敬老の日で、23日(金)が秋分の日。ダブル3連休に挟まれたその1週間は他の日本人にとっても海外旅行の絶好の機会となり、飛行機のチケットが軒並み売り切れ。格安航空券を利用しての個人旅行しかしたことのない身としては、途方に暮れる有様だった。

1週間後なら10万ちょっとで売っている飛行機チケットが、平気で15万円くらいする。格安よりも正規のPEXの方が安いなんていうバカげた状況になっている。しかもバルセロナ着が22時とかばかり。普通ならば22時着でも、まあ諦めもつくところだが、今回は事をややこしくしていたことがもうひとつある。それは、バレンシア戦がミッドウィーク開催だということ。つまりは火曜日(20日)か水曜日(21日)の開催ということで、正式な日程がなかなか決まってくれずに僕は、神経をすり減らしていった。

20日の試合を見るためには、19日にバルセロナに入っておく必要がある。当日の22時着などというのでは、着いた瞬間からテンションが最低ラインをさまようのは間違いない。テレビのダイジェストを見に、わざわざバルセロナに行くなんてのは悲しすぎる。しかし19日は休日で、チケット代もワンランク高い。しかも売り切れ続出。

ぐあーーー、こちとら連休なんか関係ないんじゃ!!
バレンシア戦とメルセ祭に行きたいだけなんじゃ!!

限られた予算の中で出来ること、それは20日発に勝負を賭け、ゲームが21日になるのを祈ることだった。今回、僕は運よく日本旅行のフリーツアーの中から、一人17万円というものを発見していた。これなら、航空会社は自由に選べないものの、全体としては安く抑えることができる。KLM指定も本来なら可能なのだが、日程が日程だけに受付けてもらえなかった。キャンセル待ちが30件を超えているんだそうな。んなアホな。

して僕らは、それだけでひとつのストーリーでも書けそうな紆余曲折の果てにそのツアーを押さえることができた。足は確保したので、あとはLFPのいい発表を待つだけ。人事を尽くして、天命を待つ・・・。内容はちっぽけだが、気持ちは真剣だった。9月になってからは、日程に関するムンドの記事をひたすらにチェックする日々。変則的なミッドウィーク開催なので、ムンドも他より頻繁に関連記事を出してくる。普段は大して気にも留めない試合日程の記事が、一面よりも重要な意味を持つ数日だった。

ひょっとしたら他の人の参考にもなるかもしれないので、リーガの日程決定に至る経緯も書いておこうと思う。ご存知の方も多いと思うが、リーガのキックオフ時間は多分にテレビの影響を受ける。特にバルサやマドリといった視聴率を取れるカードは商品価値が高く、衛星放送局CANAL+(カナル・プルス)の意向が影響力を持ってくるのだ。CANAL+は毎節、日曜日のゲームのうちの1つを独占放送し、残りがPPV(ペイパービュー)に回される。そして毎節、比較的注目度の高い1試合だけが全国放送として土曜日に無料開放され、普通に見ることが出来るというシステムになっている。

バルサTVはCANAL+の1チャンネルという形で放映され、PPV指定のゲームは別料金。つまりスペインでもバルサのゲームを全部見ようと思うと、結構な金額がかかってくるということだ(当然ライブ放送ではあるけれども)。スペインにいさえすれば、週末はフットボル三昧だ、なんてことはなく、視聴契約しているテレビのお世話にならなければならない。

僕の場合で説明すると、最終的にバルサ対バレンシアが21日(水)開催になったのは、その直前のアトレティコ対バルサがCANAL+での放映になったことが決定的な意味を持っていた。当初このアトレティコのゲームは無料全国放送(土)になる可能性が高かったのだが、CANAL+がそれを拒否。よってCANAL+による日曜枠での開催となり、それにしたがってバレンシア戦は水曜開催(PPV放送)になったというわけである。

最初にムンドに「バレンシア戦は20日開催」と掲載された時には、正直目の前が真っ暗になった気がした。しかしそれはムンドの予想としての記事であり、LFP(リーガ協会)にもCANAL+のサイトにも正式発表として掲載されなかった。それだけを唯一の頼みとして僕は最終発表を待ち続け、その数日後に上記決定が為されたのだった。CANAL+がアトレティコ戦を選んでくれたことに対し、メガトン級の投げキッスを送りたい気分だったのは言うまでもない。

2. 入国、そしてホテルへ

んなこんなで、僕たちは無事バレンシア戦を観れることになった。毎回のことながら12時間を越えるフライトは憂うつだったが、初めて乗ったJALが事の外良かったことがポジティブな裏切り。JALは最近トラブルを知らせるニュースばかりで心配していたが、次も乗ってもいいと思わせる内容だった。しかし、機内にかなり空席があったのはナンデ?おかげで3人座席を2人で使え、快適だったのだけれども。

飛行機はロンドンで乗り継ぎ、バルセロナへ向かう。日本からスペインへの直行便がないのが、つくづく残念でならない。だって、2回も離陸し、2回も着陸するなんてのは心臓に悪すぎる。ヨーロッパ乗継便は機体もジャンボよりひと回り小さいし、湧き続ける手の汗で脱水症状になりかねない。少なくとも、読もうとしていた本はシワシワになってしまうのだから、JALやANAやイベリア航空にはなんとかして欲しいところだ。ロンドン乗継がブリティッシュエアから、勝手にイベリア航空に変わってたし。

て、手のひらをグッショリ濡らしながらも僕たちはバルセロナ・プラッツ空港へ到着した。時間はおおよそ、22時すぎ。これまではドイツやオランダ経由での入国だったので何の審査もなくいけたのだが、今回はEUの“なんたら協定”に調印していないイングランド経由ということで入国審査を受ける。さぼってイミグレーションカードを書いてなかったので、結構時間をムダにしてしまった。試合当日だったら、おそらくまともな神経ではいられなかったはずだ。

して今回のホテルはサンツ駅前の「エキスポ」だったということで、リムジンバスではなく国鉄を利用して市内へ移動してみる。空港のターミナルAとターミナルBの中間にある長〜い渡り通路を行けば、乗り口はある。さすがに22時過ぎとあって、人影はまばらだった。オレンジ色の外灯が、ヨーロッパへ来たという実感を呼び起こした。時間が遅いので、切符売り場は閉まっている。つまりは自動販売機を相手に切符を手に入れなければならないわけで、これは初体験。平静を装いつつも、ビビリながら順番を待った。

さて自販機だが、スペイン語を多少かじっていることで難しくはなかった。記憶はおぼろげなのだが、まず画面に表示されている「T-10」というところにタッチする。「T-10」は「タルヘタ-10」の略で、つまりは10回利用できるカード型回数券である。国鉄だけではなく、地下鉄やバスでも使用可能。一般的な観光客であれば地下鉄は10回以上乗るだろうから、これを購入するのをお奨めする。料金は6.3ユーロ(2005年現在)で、おおよそ870円。これで10回乗れるのだから、大阪の地下鉄やJRの運賃の高さにあらためてウンザリだ。画面の操作方法に戻ると、「T-10」を選ぶとたしか枚数選択になったと思うので、表示された金額を投入すれば終了。以前はタバコ屋などで購入していたタルヘタだが、自販機がとても簡単だったので、今回はすべてこちらを利用した。

改札にこのカードを入れればゲートが開く(または、つっかえ棒が動く)仕組みになっているのだが、身体のどちらに入れるかは場所によって違う。見た感じゲート型は日本と同じ右側で、つっかえ棒型は左側だったと思う。このタルヘタは他人と共同で使用しても構わないので、自分が通過してから同伴者に渡せばOK。1人で1枚ずつ買うより、有効に使いきることが出来る。

ラッツ空港の国鉄は始発駅であり終着駅なので、ホームに停車している電車に乗れば問題ない。僕たちは目の前に停車しているガランとした車両に乗り込み、出発を待った。「地球の歩き方」には大体30分おきに出発、と書いてあり、なおかつ終電が11時40分とあるから、11時10分頃には出発するのだろう。時計は11時10分ほど前。少し前に出ていたからこの車両は空いているようだ。仕方ないので、僕らはじっと待った。

しかし11時10分を過ぎても、車両が動き出す気配はいっこうになし。長時間の移動で疲れきっていた嫁は、このスペイン風のスタイルに困惑し、苛立ってもいるようだった。そらそうだ、アナウンスやら何時出発の電光板表示もないのだから。ひょっとしてこれが終電で、つまりは11時40分まで待つのかも・・・・という嫌な予感が脳裏をよぎり、そしてそれは見事なまでに的中した。その頃にはけっこうぎっしり詰まった車両は改札で談笑していた警察官を乗せ、“予定通り”の11時40分にプラッツ空港を後にした。

サンツ駅は大きいし、それまでの駅とは明らかに雰囲気が違うから、ここだというのはすぐに分かるだろう。日付も変わる時間帯ということでエスカレーターもしっかりと止まっていたのだが、それでもサンツまでたどり着けたことでホッと一息。さて、そうなれば遅い遅い夕食だぞと、電源が落ちて階段と化したエスカレーターを上ってみた僕たちは再び呆然と立ち尽くすことになる。

「開いている店がない・・・」

これが僕の故郷の姫路駅ならば、夜の12時に開いている店なんぞは存在しない。それは理解できる。しかし仮にもバルセロナはスペイン第2の都市であり、日本でいえば大阪だ。サンツ駅といえば街の交通の要所であり、JR大阪駅に相当すると言ってもいい。だが、ここはスペインだった。駅前だからといって商店街もないし、若者が集まって遅くまで賑わうということもない。夜遅くまで開いている店があるとするならば、それはバルセロナ大学とかカタルーニャ広場とか、あっちの方面ではなかろうか。

とにかくサンツ駅周辺は、閑散としていた。夜遅くバルセロナに到着する場合、プラッツ空港のターミナルロビーで食事を済ましておくのがベターだと思う。その晩はなにも食わず、とにかく寝た。寝てしまえば、朝ご飯はあっという間だ。

3. ソシオオフィスにてチケット受け取り

朝、僕らは朝食をがっついた後、まずカンプノウを目指した。ホテルはサンツ駅から徒歩2分くらいのエキスポなので、交通の便はとてもいい。サンツ駅には2本の地下鉄が経由していて(L3とL5)、どちらを使ってもカンプノウへ行くことが出来るのだ。けれども今回はまず、街の様子を知りたければ通りを歩いてみろ、という自分の中での原則に従い、スタジアムまで歩いてみることにした。地図上の距離から推測するに、大体30分くらいで辿りつけそうだった。もちろん嫁サマの了承も得て。

き方を簡単に説明しておくと、まずはサンツ駅の西側にあるバジェスピル通り(C. del Vallespir)を北上。すると地下鉄3号線のプラサ・ダル・セントラ(Plaça del Centre)駅にぶつかる。そしてそのままさらに北上を続けると、今度はラス・コルツ(Travessera de Les Corts)というそこそこ大きな通りに出会うことになる。ここまでの道は若干の上り傾斜で、歩道を彩っている並木が非常に心地よい。果物屋やら生活に密着した店が点在し、旅行者なんてのはもちろんほぼ皆無。そんなエリアだ。

ラス・コルツというのはちょっとバルサの歴史を知っている人ならピンとくると思うけれども、カンプノウが出来る前のホームスタジアムの名前がラス・コルツ。ああ、60年ほど前まではこの近辺にスタジアムがあったんやなぁ・・・と思いを馳せながら歩くのもいいかもしれない。で、さっきまで来ていた道をそのまま北上すればディアゴナル大通り(Avinguda Diagonal)に出ることが出来るし、このラス・コルツ通りを西へ折れてもいい。今回の僕らは、西へ折れるルートを選んだ。

そしてしばらく歩くと地下鉄3号線ラス・コルツ駅に出会い、さらに直進するとグラン・ビア・カルロス3世(Gran Via De Carles III)という通りにぶつかる。ラス・コルツ通りの北側が道路、南側が広い遊歩道という面白い大通りである(この交差点で、道路は地下に潜る)。ここまで来ればカンプノウは目前。いや、もう見えていたかもしれない。ちょうどこのあたりに、ムンドの記事なんかを読んでるとたまに出てくるCOMラディオがある。というわけで、めでたくカンプノウ到着。サンツ駅から要した時間は、ほぼ予想通りの30数分だった。ちなみにこのルートだとスタジアムの南側に着くので、メガストアに行くとなるとさらにカンプノウの敷地の周りをぐるりと回ることになる。

の日カンプノウを訪れたのは、夜に行われるバレンシア戦のチケットを受け取るためだった。僕はソシオになっているので、バルサソシオ部の日本人スタッフ(なかなか素敵な人です)とのメールのやり取りでチケットを押さえてもらえる。この詳細に関しては、観戦ガイドのチケット入手方法のコーナーで説明してあるので、そちらを参考にしてください。

このシステムは2005/06シーズンから始まったものなので、もちろん僕も未体験。どんなものかと思っていたのだが、利用してみた感想は「非常に良い」だった。メールで確保してもらえば、あとはカンプノウにあるソシオオフィス(OAB。メガストア奥)へ行き、受付のスタッフに「チケット・プリーズ」などと言って受付用紙とソシオカードを見せるだけ。英語も通じるし、まず困ることはないと思う。先着順ながらクラシコのチケットも取れるので、ソシオならば是非とも利用して欲しいシステムだ。いや〜、便利な時代になったもんである。

チケットを受け取れたので、とりあえずはホッと一安心。OABの受付スタッフにソシオ部のボスであるフランセスクを呼び出してもらって、「はじめまして!BlauGranaの管理人です」などとご挨拶した。彼は若くて、物腰の柔らかい、とてもとっつきやすい人物だった。思った以上にスペイン語では言いたいことが言えず、これまたヘナチョコな英語も交えながらの会話。やっぱ、言語は実戦練習をしないとダメだぁ。

4. フリーシート制に感謝

して試合まではまだまだ時間があるので、サグラダ・ファミリアへ観光へ出向き、疲れたのでホテルで昼寝。キックオフは21時だから夕食は先にとっておこう、ということで20時前にホテルを出撃した。夕食は、サンツ駅にあるセルフサービスのファーストフード店で。スペインでは定番のボカディージョ(フランスパンのサンドイッチ)のセットメニューがあるので、手軽に腹ごしらえができる。ボカディージョにポテトとドリンクがついて、500円くらいだったと思う(うろ覚え)。ちなみにあちらのポテトは塩味ではなく、マヨネーズかケチャップを付けて食べる。唐突に「マヨネサ?」とか聞かれても、一瞬なんのことか分からなかった。このセット、案外腹いっぱいになる(30代男性の場合)。

さて肝心のカンプノウ行きだが、今回は地下鉄3号線のマリア・クリスティーナ(Maria Cristina)を利用した。席がラテラル側だったので、北側から向かった方が楽かな、というのがその理由。マリア・クリスティーナからだと、カンプノウは緩やかな下り坂の途中にあるので。試合前であればバルサグッズを身に付けた人たちがそこかしこにいるので、なんとなくついて行けばスタジアムまでは自然とたどり着ける。あとはチケットに記載されている番号どおりに、ゲートをくぐっていけばOK。最後の座席はちょっと迷うかもしれないけど、その時は入り口付近にいる係員に尋ねれば、気さくかつ丁寧に教えてくれるだろう。チケットの番号を指差しながら話しかければ、言葉は通じなくても言いたいことは伝わるはず。案内してもらったら、感謝の気持ちを込めて「グラシアス!」と言っておこう。

で、今回僕らが得たのがどんな席だったかというと、ラテラル(バックスタンド)3階の、なんとド真ん中!水平軸だけで言えば、センターラインの正面だった。カンプノウは非常に良くできたスタジアムなので、3階席でもグラウンドが非常に近く感じる。選手は確かに小さめではあるけれども、3階席から見ているという印象は得ない。多少予算を節約したい人であれば、ラテラルの3階席はいいと思った。ちなみに僕らが座っていた席は、本来は年間シート保有者のもの。バルサは年間指定席をもつソシオから、観戦できないゲームのシートを買い戻すというシステムを導入しており、それによって無駄なく席を活用できるようになっているのだ。そこは僕らの席は隣に座ってた男性の、奥様と子供さんの席なんだそうで。いい席持ってるなぁ〜と羨ましくなると同時に、バルサのフリーシート制度に感謝した。

5. 徒歩でホテルへ

合の内容は、省略。バルデスのあり得ないエラーによるゴールが入ったときのカンプノウの「シーン・・・」という空気が印象的だった。で、2-2というしょっぱい結果に終わったため、試合終了の笛が鳴るや否やスタンドは一斉帰宅。ここでカンプノウの凄まじさが実証されるわけだが、8万人の観客がいっせいに席を立っても、一切混雑せずに吐き出せるところがすごい。日本のスタジアムなら、これだけの人が出るにはかなりの時間が必要なのではなかろうか。そのスムーズさの秘密は、なんといっても観客が通れるゲートの多さ。そしてスタジアムを出てからの自由さにある。

日本なら、間違いなくスタジアムの周りにはうるさい交通整理員が出る。メガホンを手に、「きちんと歩け」の大合唱。あの過保護さといったら、ない。周辺住民やらから苦情が出るから整理でもしているんだろうけど、ここらはさすがにバルセロナは度量が深い。僕らは帰り道には午前中にきたルートの逆行きを選び、カンプノウ南側を通るラス・コルツ通りを東へ向かうことになる。そしてこの結構広い通りが、試合終了後はほぼ完全に歩行者天国状態。車も若干量は通ってはいるが、なかば“その時間にそこに居合わせた運の悪さ”を諦めているのだろうか、一切クラクションなどは鳴らさず、ゆっくりと人の流れに切れ目ができるのを待っている。暗黙のルールが、成り立っていた。そして自由に人が各方面へ散っていけるから、混雑も発生しないのだ。

僕らは人の流れに沿って、ラス・コルツ通りを東へと向かっていく。交差点には警官がいるにはいるが、うるさく歩行者を指導したりはしない。歩行者は守るべきところではルールを守り、自由にできるところでは自由にしていた。こういうのが結局、“大人”であったり“成熟した社会”なんだろうかと思う。日本の場合、社会的に無軌道になりすぎる人が多いのだろう。“パブリック”という概念が定着していないとも感じるし、一般的に“ここまでなら自由にしていい”というラインが定まってないから、警官やら係員がうるさくうるさく声を出してくる。たしかにゲーム終了直後のカンプノウ周辺は“無法地帯”と化すが、それは“秩序ある”無法といえよう。

てなわけで、試合が終わった後のスタジアムの周りは何千だか何万の人が溢れていて、しかも大半が地元民。だから言い切ってしまうと、逆に危険な香りはしない。この日のゲーム終了は23時頃だったけれども、人の流れに沿って道を進んでいる限りは、何者かに襲われるなんてことはないだろう。僕らは途中から大きな人の流れからは離れたけれども、ラス・コルツからサンツ駅にかけてのエリアは新市街であり、絶対ではないけれども安全な方だと思う。普通に人通りもあるし、危険なエリアにあるピリピリした空気などは感じられなかった。もちろん用心するに越したことはないので、スタジアムから少し離れた車どおりのスムーズなところでタクシーを拾ってもいいし、適当なところから地下鉄に乗ってもいい。ちなみにカンプノウからサンツ駅までは下り坂になっているので、楽々歩いて帰れた。

6. 番外編「メルセ祭り」

回の旅は最初に観戦が組み込まれてしまっているので、以上でバルサに関する話題は終わり。ここからはもうひとつのテーマであった「メルセ祭り」について簡単に紹介しておこうと思う。ちなみにメルセはアルファベットでは「Mercé」と書き、「マルセー」と発音するようだ。現地人に「メルセ」といっても分かってもらえず、祭り会場のアナウンスでは「マルセー」と言っていた。「セ」にアクセントが置かれるのだ。

このメルセ祭りは、毎年9月22日〜25日頃に行われる、バルセロナ最大規模のお祭りだ。細かい日程は変化するかもしれないが、24日が日本の祭り的に言うと“本宮”となり、街中で様々なイベントが繰り広げられる。旧市街を中心に、本当にいろんな催し物があるので、是非とも一度は体験してほしい。本当にハッピーな気分になれるから。

この期間中はカタルーニャ広場をメインとして各種コンサートが深夜まで繰り広げられ、ランブラス通りには世界中からストリートパフォーマーが集結。ヒガンテス(巨人)と呼ばれる美しい人形たちが軽快な音楽を奏でる演奏隊とともに練り歩き、23日の夜にはカテドラル広場でドラゴンや悪魔の人形たちが火(爆竹花火)をまき散らしながら行進する。ビーチでは昼間は様々な形をしたカイト(凧)のショーや、熱気球のパレードがあり、夜には各国代表による花火ショーも繰り広げられる。まさにこの期間中はバルセロナ全体が祭りのムードに包み込まれ、非日常の異空間へと変貌するのだ。

スケジュールは街中にあるインフォメーションなどで手に入れられるので、まずはそれをゲットしておこう。イベントの場所と時間が、分かり易く記載されている。

人的なおすすめは、やはり23日の“宵宮”に開催されるコレフォック(Correfoc)。パンフレットには“Fire Run(火走り)”と紹介されている。メルセはバルセロナ市の各地域が競い合って練り歩くヒガンテスが目玉なのだが、これには王侯貴族や騎士だけではなく、ドラゴンや悪魔(?)の人形も多く存在する。コレフォックではこれらの“ワル”たちが主役となり、大暴れするのだ。

舞台は旧市街の、カテドラル広場。20時30分、とてつもなく盛大な爆竹ファイアーにて、それは開始される。各ドラゴンたちの口には火花を吹き散らす花火がセットされていて、その火の粉を広場に集まった観客たちに容赦なく浴びせかけていくのだ。子供たちや子供の心を忘れない大人たちは、我先にとそのドラゴンへと突入し、思う存分ファイアーの洗礼を受ける。花火は燃え尽きると、最後にズドンと断末魔の叫びをあげながら爆発し、鼓膜はその振動にしばらくは麻痺してしまう。そしてドラゴンたちだけでは寂しいので、その周囲には悪魔に扮した各地区のおっさんや子供たちがいて、くるくる回る花火棒で攻撃してくるのである。

これが僕のような人間にはたまらなく楽しく、火花に怯える嫁を放置して狂喜乱舞。ジモティーたちはしっかりと火の粉を浴びるために長袖シャツに帽子(フード付なら言うことなし)という完全装備で挑んでいるのだが、うっかり帽子を忘れた僕は思う存分に突っ込むことが出来ない。さすがに素では熱いし、髪も燃える。実際に少し燃えたし。次回こそは、完全装備でドラゴンに突撃したいと思う。

なにせメルセ祭りは楽しすぎて、ここだけでは語り尽すことが出来ない。なのでまた後日、専用のコーナーを作ってじっくりと紹介したいと思う。9月にバルセロナを訪れる予定なら、この祭りはなんとかしてスケジュールに組み込んでほしい。