年内のプレー復帰を目指すフレンチ。
ウサイン・ボルトが強烈な主役となっているこの月曜日のスペインメディア。それはカタルーニャ方面とて変わらず、SPORT、MUNDO DEPORTIVO両紙ともに一面の半分はボルトに割かれているという状況です。一方でバルサ的なメインニュースとしましては、SPORTがソングの続報を特集。MDがアビダルとなってまして、こちらではやはりより嬉しさの伴うアビさんの話題を紹介いたしましょう。バルサの22番は日曜、今年中の復帰を目指すとまで宣言しているのです。
パリ遠征に参加
この週末はもはや、エリック・アビダルのためにあったといっても過言ではありません。もちろん今季の台風の目となりそうなPSGとの親善試合が一番の出来事なのですが、その周囲に散りばめられたアビさんエピソードが個人的にはより重要。4月10日の肝移植からおよそ4ヶ月となり、ぐんぐんと体力を取り戻しつつあるアビダルです。
この週末アビ物語の序章は金曜日、クラブから発表された”パリ遠征にはエリック・アビダルもまた帯同する”というニュースでした。それはすなわち、彼の体力が飛行機による日帰り旅行に耐えられるほどに回復し、その程度は外界と接してもOKになったということを意味します。
シウター・エスポルティーバには通い、治療も兼ねた体力回復の運動をしているというアビダルですが、彼が公けの場に普通に登場するというのは、これがおそらく初めてです。空港へ現れた彼の服装は、少し深みのあるブルーのTシャツにジーンズ、そして足元はスポーツシューズ。病気前と比べれば肉の落ちた顔つきに無精ひげも生やしていたとはいえ、表情は常に明るく、彼が4ヶ月前に大手術をした人であるとは、言われなければ判らないほどだったようです。
アビダルは今回、カンプノウではなくてプラット空港でチームメイトたちと合流しています。今回の旅が意味するところ(必ずチームに復帰するんだというアビダルの決意)を理解している選手たちは、温かく彼を迎えました。SPORT紙の記事によれば、空港にやって来たアビさんとまず抱擁を交わしあったのはアルベスで、続いてピケ、ペドロ。ケイタもきっと、この場所にはいたかっただろうなと想像します。
ちなみにアルベスはその後すぐ、アビダルにその夜の試合の観戦チケットをおねだりしていたそうで。友人のふたりがパルケ・デ・ロス・プリンシペス(パルク・デ・プランスのスペイン語)へ一緒にいくので、2枚都合してほしいというテキトーなお願いなんですが^^、アビさんは携帯電話を手に取り、律儀に手配をしていたとのことであります。
el saque de honor
エリックは今回、ただチームと一緒にパリへと飛んだわけではありません。PSG対FCBの親善試合が始まる前、いわゆる始球式というやつを行っています。センターサークルの中央にボールを置き、ちょこんとボールを蹴るというあの儀式。スペイン語では “el saque de honor”。そのまま訳せば名誉のキックオフとでもいいましょうか。
すばらしかったのはアビダルがパルケ・デ・ロス・プリンシペスのピッチに現れたときの、観客からの万雷の拍手です。どちらのサポーターであるかは関係なく、ほとんどみんなが立ち上がってのオベーション。母国フランスの人たちにとってもアビさんが特別な存在であることが分かりますし、この旅で受けた様々な歓待や声援は、彼が病から完全回復していくための大きなエネルギーとなったことでしょう。
「12月復帰が目標」
そしてパリチーム対カタランチームとの試合終了後、グラウンド脇でのTV3の取材に対して、アビダルはサプライズともいえるコメントをしています。世界中のクレを、とても幸せな気持ちにさせてくれるメッセージです。「ジムワークはすでに始めているし、調子はいいよ。この調子で(回復を)続けていって、12月前にプレーを再開できてたらいいね。それが目標なんだ」
「リハビリはかなりハードだったよ。特に手術の後が厳しかった」というアビさんはしかし、なにがなんでも年内復帰をするつもりではありません。それはあくまでシナリオが理想どおりに進んだ際の話です。彼はこうも付け足しています。「ドクターたちには必要な時間の余裕を見るように言われているから、そうしていくつもりだけれどね。もし目標より遅れたとしても、なんのことはないよ。僕にとって一番重要なのは復帰することなんだ」
とはいえ、専門家をしてもエリート選手としての復帰は非常に困難といわれていた病気でしたから、このアビダルの宣言は周囲に嬉しい驚きを引き起こしています。少なくとも彼自身は、引退などはまだ考えていないことが判る。実際に12月に復帰できるかどうかは別として(そうなれば最高!)、そこまで回復したのがまずはスバラシイではないですか。
身体のリアクション次第
アビダルの体力が回復したことを示すエピソードとしては、MD紙の記事で次のようなものもあります。アビさんは今回、パリで一泊するのではなく、チームと一緒にバルセロナへと戻ってきています。試合終了が22時前なので、プラット空港着は日付も変わった1時45分でした。そしてこの空港でも彼は、報道陣の取材に応じて心境を語っている。それはこんな感じです。「いい状態だよ。数ヶ月前に比べてずっと良くなっているし、だから遠征に出たんだ。チームメイトたちと一緒にいたい気持ちが強かった」
「12月前に復帰するのが僕の目標だ。それが難しいってことは知っているけれど、戦わなければならない。最終的にそれが上手くいけば、お祝いをするよ。でもまずはかなりの努力が必要になるであろうことも判ってるんだ」
現在アビダルはシウター・エスポルティーバのジムで運動を始めています。ピッチに再び発つことを夢見て、マシーンと動かす毎日です。「ジムで少しずつ仕事を始めているし、調子は良いよ。あとは身体がどうリアクションするかで、状態が良ければ事を進めていくし、もしダメなときはちょっとひと休みするさ」。「体重はちょっとずつ体重は戻り始めてきている。脂肪は必要ない。足りないのは筋肉だけだ」。ゆえに重要となる、ジムワークなり。
1年前の手術の後、アビダルの人生観は大きく変化し、所有していた高級車はすべて売り払ってしまいました。そしてそれで出来たおカネを、必要としている人たちへと分配。今回の手術でも、そういった社会貢献への思いはより強まったそうです。「僕は入院中、自分よりも難しい状況にある患者さんたちと知り合い、話をしてきたよ。そこでものすごくたくさんのことを学んだんだ。前回も人生は変わって見えていたけれど、今回はさらにそうなったね」
決して力むことなく、自然体で大きな挑戦に挑もうとしているアビダル。まだまだ先は長いのでしょうが、彼なら本当にピッチに戻ってくると、周囲に信じさせるものがアビにはあります。クラブもそう信じているからこそ、彼のために背番号22はキープしている。ビスカ・エリック!バモス!
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