いつの日か、ディレクターか監督として。
2015年5月22日、FCバルセロナの偉大なるカピタン、チャビ・エルナンデスがクラブ退団とカタールのアルサッド移籍を正式に発表しました。大どんでん返しの残留発表にならないか、、とのクレの希望は叶うことなく、「今がバルサを去る最高の瞬間」だと17年に及んだカンプノウ生活に別れを告げることを決意した師匠。昨年のカルラス・プジョルに続き、また一人バルサの象徴であるクラックがクラブを去るのは寂しいかぎりですが、これまでの活躍とファンを楽しませてくれたプレーの数々に感謝をし、笑顔で送り出すだけです。
バルサを去る瞬間が訪れた
現地時間の13時30分頃、シウター・エスポルティーバの記者会見室でチャビ・エルナンデスの記者会見は始まりました。カピタンが座席につくや、その周りはカメラマンさんたちによる黒山の人だかり。その独特の雰囲気に少々気圧されたような面持ちで、チャビはスピーチを始めています。
「今季限りでのバルセロナ退団を発表したいと思う。これは最終的な決断であり、シンプルでも簡単でもない決断だったよ。この僕の決断に妻や家族、周りの人たちは賛同してくれているし、今が去る瞬間だ、と僕はそう思うんだ。今季はここに残って良かったし、自分がチームの役に立っているとも感じている。退団しろと僕に言っているのは身体と頭で、心ではない。僕の感情は強くバルサに向かっているからね。難しい決断だったけど、今がここを去る時。僕と家族は、環境を変えるべきなんだ」
「僕はアルサッドのプロジェクトに胸をときめかせている。アルサッドでは2年間プレーすることになり、1年延長オプションもある。アスパイア・アカデミーのプロジェクトも楽しみにしている。アカデミーでは兄弟のアレックス、オスカルと一緒に仕事をすることになるだろう。妹のアリアドナもカタールへ行く。カタールでは将来的にフットボルに関わっていくために監督やスポーツディレクターの勉強もしていく。2022年カタール・ムンディアルの大使も務める。僕や家族にとって、希望を抱かせるプロジェクトだ」
「僕を信頼してくれたクラブには感謝をしないといけない。バルサはいつも僕を信じ、高く評価してくれた。クラブからは2、3週間前に2018年まで契約を延長するオファーをもらったけれど、決断はもう付いていたんだ。繰り返すけど、環境を変える時が訪れた。ここ最近の試合で僕の名前を叫んでくれたファンにも感謝しているし、この決断が誰も落胆させないことを期待してる。一つのことに終わりを告げ、そして自分の未来を形作る時が訪れたんだ」
「スポーツディレクターや監督となって、このカサ(家)に戻ってくることが目標だと僕はいつも言ってきた。バルサは僕の人生だからね」
1年残ったのは正解だった
バルサを去り、カタールへと行くことを伝えるスピーチを終えた後は、報道陣からの質疑応答を受け付けます。このあたり、表情はどことなく虚ろでした。以下はその質問とチャビ・エルナンデスのコメントです。
【1年前の残留の決断】
「正解だったよ。残留したことにとても満足している。だってチームは今スペクタクルな瞬間を過ごしているからね。自分が試合に参加している時は、役立っていると感じられた。ただ僕にとっては、ベストメンバーの中に自分がいないのを見るのはハンディキャップなんだ。それを受け入れるのは苦労するけど、グループのことが最優先だと考えて謙虚にやってきた。プレーをした時は、その時間を楽しみ、自分が重要だと感じられた。1年ここに残ったことに満足してるよ」
「今、チームはスペクタクルな状況にあって、トリプレーテ達成の可能性もあり、歴史を作ることができる。土曜日はカンプノウがフィエスタになることを期待してるよ。ここまでのシナリオは完璧。まるで自分用に仕立てられたように思えるよね。でも僕らはファイナルで勝たなければならない。僕らはすでに、そのシーズンを表すコンペティションであるリーガを制した。ファンの前でトロフィーを掲げる瞬間が楽しみだよ。このシーズンラストを、最高の形で楽しみたいね。トリプレーテは達成したいよ。良いフィナーレになるだろう」
「昨年の夏はおそらく、全てが性急だった。バルサと代表で二度、大きな落胆を味わい、僕の気持ちは弱っていたんだ。頭は決断しろと言っていたけど、心が僕を止めた。でも今はもう自分が望んでいたほど試合に参加していない」
【母ちゃん】
「クラブから契約更新のオファーがあったことを母にはなにも知らせなかった。そうでなければ、物事は激しくなっていただろうから。。彼女は家族の中で一番のバルセロニスタで、去年もすでに僕が出て行かないように熱くなっていた」
【チームメイトたちへの告知】
「何人かのチームメイトたちは、すでに知っていた。正式には今日ロッカールームでみんなとミスターに伝えたよ。家族みんなでカタールへと行ったことが前兆だった。決断はもう数ヶ月前からしていたんだ。クラブからのオファーには考えたけど、物事を天秤に乗せ、最終的に僕はカタールへ行く」
【バルサでの引退ならず】
「僕はとても幸せだよ。これ以上のキャリアは不可能だったし、もしもう一度やり直したとしても、同じようにはいかないだろう。本当に幸せだし、ファンにさようならを言いたい。トップチームに来てから17年、クラブに入ってから25年だもの。これ以上はないよ。僕は誰からも良くしてもらったし、敵はいないんだ。僕は全てを楽しんできた。あとは残された2つのトロフィーだけさ」
「チャンピオンズやムンディアルの決勝、クラシコをプレーしながら、僕はまるで学校の中庭で遊ぶようにして時を過ごしてきた。信じられないような世代を経験してこれた」
バルサ一家の生徒
【チャビの遺産】
「僕がこのクラブに与えてきたものを思い出してもらえれば嬉しいね。自分のことを話すのは好きじゃないんだ。僕にはそれは傲慢なことに思える」
「僕はバルサ一家の生徒であり、自分の成績はとても良かったと思う。僕は自分が習ったことをピッチで表現するよう努めてきたし、全てを完璧に具体化したかった。幸せな数年間だったよ。人生に偶然は少なく、どんなことの背後にも多くの努力が隠されているんだ。このカサの人たちが力を合わせ、そこに外部の重要なピースが加わり、すばらしい物事が為される。僕らのこの10年間はものすごいものだし、他の主役たちと同様に自分も重要な人間だと感じているよ」
【ここ数日】
「郷愁を誘い、心悲しませるシチュエーションだよ。ここ数日間、僕はとてもナーバスになっていた。でも今は最後の試合に集中していきたい」
【カタールでの将来】
「フットボルをプレーし続けていきたい。その元気はあるからね。競争力では劣るリーグにはなるけれど、多くを学んでいけると思うし、彼らのプロジェクトは僕や家族にとってすばらしいものなんだ。カタールの人たちからの扱いは並外れていたよ。僕らはあの国や施設をとても気に入っている。あちらでの経験は将来の役に立つだろうし、成長し、いつの日かこのカサへ戻ってくるための最適な場所だと思う」
【グアルディオラとの会話】
「ペップとは話さないといけないけど、ラウールとは去年話をした。僕はプロジェクトをすごく楽しみにしている。アスパイアの施設はすばらしいよ」
【クラブを去ること】
「別のユニフォームに袖を通すのは複雑だろうね。この最後の瞬間を楽しみたいと思う。レオや他のチームメイトがいなくなるのは寂しいだろう。レオやアンドレス、セルヒオ、ペドロ、ジョルディ、たくさんの仲間が恋しくなるだろうと思う。でもそれが人生さ」
「バルサはこれからも勝ち続けていくし、カサから多くの選手が出てくるよ。なんの問題もないさ。誰かが去ると大惨事のように思えるけど、バルサはこれからも勝ち続けるし、偉大であり続ける」
【キャリア最高の瞬間】
「たくさんあって、一つは選べないね。バルサにいる、それだけで僕は幸せだったんだ。僕にとってこれ以上の場所はない。心に残っているのはキャリアを通じて出来た友人たちだよ。ライバルチームや、会長たちも含めてね」
【ひどかった瞬間】
「僕らはフットボル文化と戦ってきた。それはつまり、僕らは身長180cmや190cmのフィジカルで上回るセンスたちを相手に勝ちにいったということだけど、バルサは常に試合の支配者であり続け、自分たちの望む良いフットボルをすることで勝利してきた。僕にとっては簡単なキャリアじゃなかったし、僕はたくさん疑問を持たれもしたよ。物事が上手くいかない時は、僕が矢面に立つことになった。僕は成功と敗北の、その両方のエッセンスだったんだ。僕はかなり頑固な人間で、とことんバルセロニスタだ。母もまたそうで、僕が物事を諦めなくなったのは彼女の影響なんだ。5年間無冠だった時は、難しかったね。僕がバルサに残り続けさせたのは家族と友人たちだったよ。バラ色の道ではなかった」
後継者の名前は挙げない
【後継者】
「成果を出せる選手たちはもうすでにカサにいるよ。ラキティッチは並外れた選手で、ものすごくダイナミズムがある。アンドレスもオーガナイザーの役割に適応できるし、今季すでにやってきている。セルジ・ロベルトとラフィーニャだってハイレベルなのを証明してる。バルサでプレーするセントロカンピスタは僕らのプレーを理解し、基礎となっている哲学を知らなければならない」
「僕がペップの後継者とされた時のような重しを、誰かの上に乗せるのは厳しいよ。だから僕はどの選手の名前も挙げない」
【ラ・マシアの価値】
「バルサはこの30年間の哲学とともに勝利を手にしてきた。カサ育ちの選手は常に必要だし、彼らを信頼しなければ、おかしなことになっていくだろう」
【最も要求度の高かった監督】
「よく叱られたのはバンガールだね。彼はよくフィリアル(Bチーム)まで僕らを見に来ていたし、偉大な監督であり偉大な育成者だった。彼はあまり評価されなかったけれど、とても賢かったよ。その他は、ライカーにもペップ、ティトにもたくさん助けてもらった。みんな個性があったね。今ならルイス・エンリケだ。セレ・フェレールも。全員が僕のキャリアにおける重要な人たちだ」
【ルイス・エンリケ】
「ルイスとはフットボルのことを何度も話したよ。僕らはすでに知った仲だったしね。僕らはフットボルについてたくさん話し合った。最初は彼に僕はここを出て行くといったんだけれど、最終的には残ることにした。彼はいつだって面と向かい、僕に偽らなかった。僕に対しとても正直だった」
【ロッカールームの問題】
「僕は消防隊員じゃないし、火消しはしない。僕らフットボル選手ってのは扱い易い人種じゃないし、いつだって問題はあるものなんだ。1月の問題を言うなら、あれは見た目よりもずっと対処は簡単だったよ。話し合い、同意形成し、解決する。毎シーズン、最終的に解決されてる事柄は三つはある」
【未解決事項】
「僕がやり残したのはハットトリックとチレーナ。でも僕にはまだ時間がある。あと3試合残ってるからね(^^)。ビクトルやアンドレスとも、5度目のチャンピオンズ制覇や10度目のリーガについて話してたよ。でもそういうふうに考えてると、きりがない。真面目に言うと、このジェネレーションは極上だった。これ以上は求められないよ」
【残されたあと2つの決勝戦】
「僕らは本命だと見なされてはいるけれど、簡単にはいかないだろう。相手はどちらも手強いよ。アスレティックは調子を上げてきているし、ユーベはすでにドブレーテを達成している。土曜日の後は、僕らは2つのファイナルに集中しないといけない。そして2つのトロフィーを獲得をして、自分のさよならのフィナーレとしたい。トリプレーテで去れるなんてまず出来ることじゃないもんね」
【不遇なカシージャス】
「イケルに起こっていることを思うと気分が悪くなるし、不当な扱いを受けていると思う。彼の状況が変わることを願ってるよ。彼にはもっと良い扱いが相応しいんだ。彼がこの国に与えてきたものを、人々は思い出すべきだろう」
【ピルロへの称賛】
「僕らは16-17歳の時から対戦してきてる。彼はすごいよ。僕は彼のプレーのファンなんだ。以前の彼はメディアプンタだったけど、今はオーガナイザーをしてる。替えの効かないフットボル選手だし、今のフットボル界にピルロのような才能を持った選手はいない。彼はチャンピオンズで勝ったら退団するって言われてる?じゃあ、僕らとしては残留してくれることを期待してるよ」
ということで、40数分間の記者会見で様々なテーマについてたくさん語ったチャビ・エルナンデスでした。チャビがトップデビューしたのは1998年8月18日のスーペルコパ。残念ながらその試合は見れていないのですが、崖っぷちに追い込まれていたバンガールのクビを救った同年12月20日のバジャドリー戦のゴールあたりは、記憶にないのですが(^^;)見ています。あれからもう17年。早いものです。
当時のチャビは自身も言っているように、“ペップの後継者”の重しを背負い、事あるごとに比較されていました。今では考えられないですが、夏が訪れるたびに“退団か?今年はレギュラーとなれるか?”と議論の対象となり、最終的に残りましたね、というのが数年繰り返されていた。暗黒時代末期となった2003年あたりは、プジョルとチャビがいまだ無冠なのはかわいそうだ、せめて現役のうちにリーガを幾つか獲れたら、、、と慎ましい希望をクレが抱いていたのを覚えています。それがクラブ史上最多タイトル獲得選手となっているチャビですから、フットボルではなにが起こるか分かりません。
バルサ選手として転機となったのはロナウジーニョが降臨した2003年で、選手として名声を手にしたのは2008年ユーロでMVPを獲得してからでしょうか。“テラッサの優等生”と言われていた彼も、いつしか立派な大人となって、ペップチームではプジョルに次ぐ第二カピタンとしてメッセージを発信。モウマドリーに対し、アンチフットボルと言いまくっていたのも良い思い出です^^
2012年末にバルサとの契約を2016年まで延長した時は、ああこれでチャビはきっとバルサで引退するだろう、と安堵したものでしたが、もっとフットボルを楽しみたいとの想いが、その彼の一つの夢を上回った。今季も随所で健在ぶりを示していただけに、偉大なる師匠がクラブを去るのは非常に寂しいですが、惜しまれて去る以上に素晴らしいこともないわけで、、チャビが表門からバルサを出ることを嬉しく思うことにします。イケルさんなんて、、ですしね。。あとは17年間のチャビのバルサ生活が、可能なかぎりハッピーエンドになれば最高。あと3試合、張り切っていこう!グラシアス・チャビ!
コメント