新会長には選手を“売り戻す”選択肢がある。
アルダ・トゥランの移籍交渉はここで決着させなければならない。会長候補者からの批判と圧力を受け、その動向に注目が集まっていたFCバルセロナの運営委員会の下した決断は、自分たちの手でオペレーションを終了させることでした。話し合いのXデーとされていた7月6日(月)遅く、バルサはアルダの移籍でアトレティコ・マドリーと合意に至った旨を公式発表。ただし18日に誕生する新会長がこの移籍をふさわしくないと思えば、移籍金(3,400万+700万ユーロ)の10%オフ価格(3,060万ユーロ)でアトレティコに売り戻せるオプションが付いているとのことです。
ラモン・アデイ委員長の決断
アルダ・トゥランの移籍を巡っては、紆余曲折がありました。今回、混乱の中心に立たされたのは、理事会に代わってクラブ運営を任されている運営(管理)委員会でした。MD紙を中心にバルサ入団はほぼ間違いなしとの報道が出回ってからも、あくまで最低限の組織運営だけを任された委員会がそんな巨額のユーロが動く契約書にサインをするのは越権行為だとの議論が発生。運営委員会は、監督が強く要望する選手を獲り逃すことこそクラブを害する行為である、いや交渉は保留すべき、との主張(プレッシャー)の板ばさみ状態となりました。この月曜を締め切りにするぞ、と交渉成立を急かせるアトレティコさんの圧力もきつかったことでしょう。
運営委員会(ラモン・アデイ氏を委員長に全10名)の考えは、ルイス・エンリケが獲得を求めているのであるから交渉を終わらせるべきというものでした。ただアデイ委員長は金額の大きさと会長候補者(ラポルタ、ベネディト、フレイシャ)の了承を得ていないことを理由に契約書へのサインに反対。以前ネイマール移籍を巡り、ソシオの一人がロセイに対して訴えを起こしたことも影響していると思われます。他候補の了承なくアトレティコと合意しようとするなら、アデイ氏は委員長を辞任するとも言われていました。
しかし月曜午後にクラブオフィスにて行われた1時間半に及んだ話し合いで、その混乱は回避されます。委員会の他メンバーから提出された、交渉を完了させるべき理由の示された技術委員会からの報告書を受け、アデイ氏は“やってやろうじゃないの”と腹を括ったのです。運営委員会は満場一致でアルダ・トゥランの獲得作業を進めることを採択しました。
アトレティコとの合意を発表後、ラモン・アデイ氏は「決断をこれ以上長引かせることは出来なかった。ただし私たちは次の会長にオペレーションを差し戻す可能性を残した」、「この合意はバルサにとって良いニュースであり、クラブの利益を守るオペレーションだ」とコメントしています。
ちなみにSPORT紙電子版アンケートでは91%が運営委員会がトゥラン獲得を片付けるべきだと回答し(3,476票時点)、75%がトゥラン獲得は正解だと回答(7,506票時点)。
カギとなった売り戻し条項の発案
このアルダ移籍での合意を伝えるFCバルセロナの公式ウェブページは、いつになく多めに経緯の説明が為されています。それは大雑把にいうと、運営委員会は自分たちの権限がクラブ規約によって“クラブの通常活動を維持し、クラブの利益を守るために不可欠な行為”に限定されていることを理解しており、このオペレーションが監督と技術委員会の求める選手との契約であり、同時に次の理事会の承認も必要であり、クラブの利益を守るためにはアトレティコ・マドリーとの合意を許可すること必要があったという内容。各方面の主張の妥協点を探ったギリギリの結論がこの合意だ、というものです。
FCバルセロナとアトレティコ・マドリーが合意した移籍金は3,400万ユーロ+各種条件によって追加される700万ユーロ。選手の契約解除金が4,100万ユーロなので、条件が揃えばそれに届く金額となっています。契約期間は5年です。
通常とは異なっているのは、7月18日に選出されたバルサの新会長がアルダは不要だと考えた場合、移籍金の固定額3,400万ユーロから10%を引いた3,060万ユーロでアトレティコに売り戻せるという非常に稀な条項が付いている点です。その場合はバルサがただ340万ユーロをアトレティコに払うことになるわけで、あちらさんとしては損はありません。そしてこのオプションが発案されたことが、ラモン・アデイ委員長が考えを変える決定打となったらしく。実際、越権行為だとの批判をそれなりにかわす、なかなかに巧みな条項じゃないでしょうか。
アトレティコを納得させ、クラブの利益も守れ、混乱を収束させ、次の会長に合意を破棄できる余地を残したこの売り戻しオプションを“発明”したのは、前理事会の代表として運営委員会のメンバーとなっていたハビエル・ファウスだったそうです(SPORT)。前金庫番副会長ファウスはこのアイディアを土曜日に思いついたらしく。その瞬間、文字どおり眼前に光が宿ったと想像します。
アルダ・トゥランの入団プレゼンテーションは今週末に実施されるらしく、ラポルタにしても三冠監督ルイス・エンリケの要望という鎧を着用している選手を切るとは考えられないので、まずこのオプションが行使されることはないでしょう。もしもそんな事態になれば、それはすごい騒ぎでしょうけど^^; 売り戻しオプションの実行期限は7月20日の深夜0時までです。
バルトメウご満悦、他候補は不満
このアルダ・トゥランの移籍合意を巡ってのバルサ会長候補たちの意見はといいますと、トルコ人セントロカンピスタとの契約を目指して数週間前から行動を開始し、アトレティコのヒル・マリンGMと基本合意を取り付けていたジョゼップ・マリア・バルトメウはもちろんのことご満悦。前会長はツイッターにて、「ルイス・エンリケは2選手(の獲得)を要求し、すでにそれを手にしている。今日でチャンピオンズ優勝から1ヶ月。すばらしい日だ」とつびやき、喜びを表しています。その他のラポルタ、ベネディト、フレイシャはいわばひとつの勝負に負けたわけで、面白くないことでしょう。
このオペレーションに関しては、バルセロニスモの反応は概ね良好だと感じます。不満な点は28歳のセントロカンピスタに投資するにしては、高額な移籍金というくらい。アレクシス・サンチェス(3,400万ユーロ)、セスク・ファブレガス(2,900万ユーロ)、トゥレ・ヤヤ(3,000万ユーロ)の売却時よりも高いわけですから、もう少し値切れれば良かったですが、高めに買って安く売るのはバルサの伝統、、、^^; チェルシーとの競合ありならこんなものですかね。
いずれにせよ、ルイス・エンリケの要求がこれで全て叶ったということですから、他の会長候補者たちは選挙戦において補強の公約を爆弾とする作戦はもう使えません。実際、ベネディトが「私たちの第一オプションはベラッティだ」と言っても、はぁ、てな感じですし。あとはカンテラの再建などで訴えるしかないので、バルトメウがまた一歩リード。アルベス&ルーチョとのダブル契約延長あたりから、のび太前会長の“やり手感”はなんでしょうかね。
そういえば今を遡ること12年前、ジョアン・ラポルタが初当選した2003年の会長選挙の際には、その選挙の隙を突かれてセスク・ファブレガスをアーセナルに連れて行かれる出来事がありました。バルサを独特なクラブとしているその所以の一つがこの会長選挙ですから、その選挙があったことでルイス・エンリケの求めるトップ選手を逃したとなれば残念にすぎます。なので越権の是非はあるにせよ、こうしてトゥランを押さえたのは良かったといえる。一方でバルサBの監督指名を巡っては問題も生じさせている運営委員会ですので、そちらについてはまた後日機会があれば。バルトメウさん、カンテラをもっとなんとかしてほしいです。
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