後半にギアの上がったクラックたちがセルタにゴール祭り。
かつて、ロマンティックが止まらない、なんて流行歌がありましたが(古^^;)、このセルタ・デ・ビーゴ戦の後半はFCバルセロナのゴールラッシュが止まらない、そんな様相でありました。前半はエドゥアルド・ベリッソ監督のプランニングが機能し、強いプレッシングを受けたバルサはボール運びに一苦労。得点はメッシのフリーキックのみでしたが、ルイス・エンリケの指示が効いた後半はチームが目覚め、あれよあれよの連続ゴールで合計6点を奪い取る圧勝劇となりました。終了後のジョルディ・アルバはこの後半の変化を訊ねられ、「ハーフタイム中にミスターが上手くいっていないところを教えてくれた」と、ルーチョの指示が試合のポイントになったと明かしています。
“クライフ式PK”で見る者を驚かせたメッシ
今回のセルタ・デ・ビーゴ戦で改めて分かったことは、相手チームがどのような準備をしてバルサを封じにこようとも、南米トリデンテのフォームが良ければ、彼らを止める術はまずほとんどないであろうことです。エドゥアルド・ベリッソ監督は主力を複数欠きながらも、前半は勇気のあるプレッシングとマンツーマンディフェンスでバルセロナに快適なプレーをさせないことに成功。試合はオープンな展開に持ち込まれました。しかしながら後半に入り、クラックたちがギアをトップに上げると彼らの守備はいとも簡単に打ち破られ、最後は大ゴール祭りに終わる。お互いを理解しあっている天性の才能が3人いて、彼らの調子が良ければ、まあ止めようはないわけです。
ハットトリックを達成したルイス・スアレスは勿論、最後にケーキにイチゴを乗せ、“セット”(6ゴール)を完成させたネイマールもまた会心の出来だったこのセルタ戦ですが、中でも際立っていたのは攻撃の核となって相手守備陣を混乱の渦に落としていたレオ・メッシでした。
火曜日に受けた腎結石の日帰り手術の効果がさっそく現れたのか、チームがまだ本調子ではなかった前半には完璧なフリーキックで先制ゴールを決め、ギアを上げた後半はルイス・スアレスの3ゴール全てに絡むなどの大活躍。ルイシートがハットトリックを完成させた4-1のゴールでは、ペナルティキックでのトリックプレーで世界のフットボルファンを驚かせてもいます。どれだけ引き出しを持ってるんでしょうか。
このトリックプレーはかつてヨハン・クライフが1982年、アヤックスでやって見せた有名なプレーらしく。バルサ系メディアは言うまでもなく、マドリー系のASやMARCAでも、“歴史的ペナルティキック”として大きく取り上げられています。普通に蹴ると見せかけて横にころころと転がし、後方から現れた選手(スアレス)が代わりに蹴りこむというプレー。実行するには、思いのほか勇気がいるでしょう。ちなみにクライフの時はボールを受けたオルセンもシュートを打たず、戻ってきたボールをクライフ自身が決めたそうです。そして2005年にはピレスとアンリが再現を試み、こちらは失敗。なにしてんの?って感じでしょうか。
そのクライフが現在肺ガンを治療中であることも、メッシたちがこのペナルティキックをやることにしたのと関係があるのかもしれません。御大は試合前日の13日、自らのブログにて、「今のところ、前半を2-0で勝っている感覚がある。試合はまだ終わっていないけれど、自分が勝つと確信している」と記述しています。
ネイマール 「ゴルド(太っちょ)に先を越された」
このトリックプレーに関しては、試合終了後のミックスゾーンにてバルサTVの取材に応じたネイマールが、次のように説明しています。「僕らはあのプレーを練習してたんだよ。あれは僕が決めるはずのペナルティだったんだけど、ゴルド(太っちょ=スアレスのあだ名)が僕よりも近くにいて、ゴールにした」
あのプレーは冒険的な試みだった、とネイは認めます。「そうだね。でも試合の中ではどんなプレーもそうだよ。僕らはしっかりと準備をしていたし、上手くいったよね」
どこかのペナルティキック大好きさんなら、こんなふうにゴールを譲るなんてあり得なさそうです。「僕らはものすごくお互いが好きだし、何よりも大切なのは友情だからね、誰が決めるかは重要じゃないんだ。そして友情のほかに大事なのは試合に勝つことさ」
ネイマールはまた、彼と冷えた関係にあるとマドリーメディアが報じるルイス・エンリケについて、賛辞を送ることでウワサを否定しています。「彼はすばらしい監督だよ。僕らに大きな自信と強さをくれる。僕が働いた中で最高の監督さ」
ルイス・エンリケ 「ファンを楽しませて勝つのが私たち」
さてそのルイス・エンリケ監督の試合終了後会見ですが、試合内容への質問もそこそこに、このメッシとルイス・スアレスによるペナルティについての質問が為されたようで。メディアにまず取り上げられているのも当然その応答になります。SPORT紙やMD紙が“クラックたちがまた面白いことやりよった!”との論調なのに対し、心地良く思っていない人々もいるようで、敬意云々の話になっていてやれやれです。
「ああいうふうにペナルティを蹴ることもできるわけで、あれはルールに則った方法だ。クライフがあのように蹴ったことを、私たちはみんな知っている。これから大きな議論が起こっていくだろうね… 私なら、ボールを踏んで転んでしまうだろうから、敢えてああいう蹴り方はしなかっただろう。まあ私はペナルティを蹴らないんだけれどね。あれを好む人たちもいれば、そうでない人たちもいるだろう。けれども私たちはスペクタクルな方法で自分たちのファンを楽しませつつ、良質なフットボルによってタイトル獲得を目指すクラブなんだ」
あのプレーが傲慢である、もしくは挑発であると語られていることを、あなたは不愉快に思いますか?との質問に対しては、バルサ監督はこう答えています。「誰が挑発だと言っているんだい?誰が、どうしてそう言うのかは分かっているよ。私たちが為すべきはフットボルを楽しむことで、相手チームにまず第一に敬意を払っているのは私たちだ。私たちはフットボルを通じて、自分たちがベストだと示していくよう努めているからね。この国では巧みに練り上げられたプレーよりも、蹴りの方が受け入れられている。けれどもその議論に私たちは興味はないよ。そういった議論はこれからも起こり続けていくだろうし、それがどこからやって来るのかも私たちは知っている」
もし自分がセルタの選手で、ああいうペナルティをされたらどうするか?との問いには、「グラウンドの真ん中へといってキックオフするさ」と答えたルイス・エンリケ。彼はこれが歴史的な試合か?との質問には、こう語っています。「申し訳ないけれど、特別なことが起こった夜だとは思わないね。歴史的な試合というのは、タイトルを勝ち取った試合のことだ。だからゴールのたくさん決まったステキな夜だよ。それに雨も少し降ったし、街にとってはそれもステキなことだ」
「私はトレーニングで彼らのプレーを見慣れているんだ。トレーニング中の彼らはもっとスゴいし、もっと難しいことをやってるよ。キミたちが思わず動きを止めて、どうやってやったんだ?と言ってしまうようなことをね… 試合を見直す必要はあるだろう。彼らがもっとスペクタクルなことをする様子を私は見てきた。歴史的な試合だった、との感覚は私にはないよ」
記者会見に勝ちも負けもないですが、この会見はルイス・エンリケが華麗に勝利、というところでしょうか。最後になりますが、セルタ戦に関してのバルサ監督の感想はこうです。
「私たちはとても上手く守っていたよ。セルタを相手にして簡単な試合なんてものは存在しないし、落ち着いたアクションなんてものもない。前半はゴール前での精度が良くなかったとはいえ、カウンターと1対1によって優位な状況を多く作り出し、セルタにカードを何枚も出させていた。そして後半はスペクタクル度がさらに増し、ゴール前での精度も上がったね。6-1というスコアは簡単な試合だったと思わせるけれど、そうではなかった。苦労して手に入れた勝利だったよ」
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